チ ョ ウ の 保 全 活 動 紹 介 ~ ツ シ マ ウ ラ ボ シ シ ジ ミ ~
 
 
 
 
 
 
 

 ツシマウラボシシジミは、日本では長崎県対馬にのみ生息するチョウです。1990年代までは、対馬の上島の広い範囲に普通にみられるチョウでした。
 しかし、2000年代から急激に減少し、絶滅の一歩手前にまで減少してしまったのですが、保全活動が間に合い、現在では様々な関係者が連携して、野生下で復活させる取り組みが進められています。
 ここでは、ツシマウラボシシジミの保全の取り組みをご紹介します。

 
 
  

 ツシマウラボシシジミは、日本では長崎県対馬にのみ生息するチョウです。1990年代までは、対馬の上島の広い範囲に普通にみられるチョウでした。
 しかし、2000年代から急激に減少し、絶滅の一歩手前にまで減少してしまったのですが、保全活動が間に合い、現在では様々な関係者が連携して、野生下で復活させる取り組みが進められています。
 ここでは、ツシマウラボシシジミの保全の取り組みをご紹介します。

 

1.ツシマウラボシシジミの発見

 

 ツシマウラボシシジミは、前述のように、1990年代頃には、生息する範囲が拡大しており、普通にみられるチョウとされていました。しかし、2011年9月、ツシマウラボシシジミがシカの影響で急激に減少しており、ほとんど確認されなくなっているという情報が日本チョウ類保全協会に届きました。
 しかし、正確な状況は明らかではありませんでした。他からは、シカの影響が少ない場所ではまだ残っているとの情報も得られ、どの程度、危機的な状況かはわかりませんでしたが、2012年10月に現地調査を行いました。

 
 
 
 

 2012年10月には、近年確認されている場所を中心に、調査を進めました。しかし、何日経ってもツシマウラボシシジミは発見できません。ツシマウラボシシジミは、沢沿いの人工林の林床でよく確認されているため、写真のように、様々な林道沿いに分け入っていきました。 

 
 2012年10月には、近年確認されている場所を中心に、調査を進めました。しかし、何日経ってもツシマウラボシシジミは発見できません。ツシマウラボシシジミは、沢沿いの人工林の林床でよく確認されているため、写真のように、様々な林道沿いに分け入っていきました。
 
 
 
 
 すると、ツシマウラボシシジミはおろか、ツシマウラボシシジミの幼虫の利用する植物、ヌスビトハギ類もほとんど生えていない状況でした。話に聞いていた通り、シカの個体数の増加によって、林床にはほとんど草が生えていなくなっていました。
 
 すると、ツシマウラボシシジミはおろか、ツシマウラボシシジミの幼虫の利用する植物、ヌスビトハギ類もほとんど生えていない状況でした。話に聞いていた通り、シカの個体数の増加によって、林床にはほとんど草が生えていなくなっていました。
 
 
 
 

 シカの被害を防ぐための柵もありましたが、そうした場所では、シカによる影響がよりはっきりわかり、シカの食害を受けた場所では、シカが嫌いな植物のみが残されている状況でした。

 
 
シカの被害を防ぐための柵もありましたが、そうした場所では、シカによる影響がよりはっきりわかり、シカの食害を受けた場所では、シカが嫌いな植物のみが残されている状況でした。
   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 シカの密度がまだ少ない場所では、食草のヌスビトハギが見つかりましたが、写真のように、新葉がシカに食べられており、これでは、幼虫は育つことができない状況になっていました。

 シカの密度がまだ少ない場所では、食草のヌスビトハギが見つかりましたが、写真のように、新葉がシカに食べられており、これでは、幼虫は育つことができない状況になっていました。
 
 
 
 

 シイタケ栽培をしており、シカが入れなくなっている場所で、ヌスビトハギが繁茂する場所も見つかりましたが、そうした場所でもツシマウラボシシジミは見つかりません。

 シイタケ栽培をしており、シカが入れなくなっている場所で、ヌスビトハギが繁茂する場所も見つかりましたが、そうした場所でもツシマウラボシシジミは見つかりません。

 
 
 

 結局、8日間も調査を続けたものの、まったく発見できず、対馬を後にしました。
 この調査で、ツシマウラボシシジミは、シカによって食草のヌスビトハギ類が食べられることにより、壊滅的なダメージを受けていることがはっきりしました。対馬におけるシカは、長崎県の報告によると、2011年における総個体数は33,416頭/㎢と推定され、これは個体数の密度に換算すると、47頭/㎢にもなります。これは全国的にも非常に高い密度です。

 
 

 結局、8日間も調査を続けたものの、まったく発見できず、対馬を後にしました。
 この調査で、ツシマウラボシシジミは、シカによって食草のヌスビトハギ類が食べられることにより、壊滅的なダメージを受けていることがはっきりしました。対馬におけるシカは、長崎県の報告によると、2011年における総個体数は33,416頭/㎢と推定され、これは個体数の密度に換算すると、47頭/㎢にもなります。これは全国的にも非常に高い密度です。

 
 

 2012年10月の調査で、ツシマウラボシシジミは絶滅してしまった可能性が高いと考えられましたが、シカの被害が非常に少ないエリアも見つかり、そこを徹底して探せば、まだ発見できる望みもわずかにあることから、当協会では、翌2013年6月に再度調査に訪れました。

 

 2012年10月の調査で、ツシマウラボシシジミは絶滅してしまった可能性が高いと考えられましたが、シカの被害が非常に少ないエリアも見つかり、そこを徹底して探せば、まだ発見できる望みもわずかにあることから、当協会では、翌2013年6月に再度調査に訪れました。

 

 そして、調査を開始した当日に1個体を発見、その後、最後まで残っていた生息地を発見することができました。この時は成虫だけではなく、ヌスビトハギに産卵された卵も発見できました。

 
 
 
 

2.ツシマウラボシシジミの保全活動

 

 チョウが発見されたことから、すぐに現地での保全活動が始まりました。対馬市や環境省と協働し、生息状況の調査、生息環境の改善、一時的な飼育による放チョウなどを行いましたが、生息状況は次第に悪化していきました。そして、このままでは絶滅してしまう可能性が高くなったことから、自然状態(野生下)での保全に見切りをつけ、飼育下繁殖(生息域外保全)によって保全を行う方向へと動きました。
 

  ツシマウラボシシジミの交尾行動を野外で観察していると、非常に広い距離を追尾した後に交尾することから、狭いケージでの交配は難しいと考えていました。そのため、広い空間が確保できる場所を探したところ、東京の足立区生物園にご協力をいただけることとなりました。

 そして、羽化した成虫をチョウの温室に飛ばし、心配していた交尾を成功させることができ、その後、人工的な産卵、幼虫の飼育を行い、次世代を得ることができました。

 

 当協会の活動から始まったツシマウラボシシジミの保全活動は、その後、当協会のほか、多くの関係者(行政(対馬市、環境省、長崎県)、昆虫館(足立区生物園、長崎バイオパーク、箕面公園昆虫館)、研究者(東京大学、大阪府立大学))が参画し、生息域内、生息域外の保全活動が進められています。
 野生下ではまだ絶滅する可能性が考えられることから、生息域外での保全も継続しており、足立区生物園に加え、長崎バイオパーク、箕面公園昆虫館でも飼育下繁殖がされており、現在3つの昆虫館で進められています。
 

 生息域内での保全活動は、シカの被害を防ぐことがもっとも重要であることから、対馬の3つのエリアで防鹿柵の設置と柵内での環境改善の取り組みが進んでおり、対馬市、環境省、当協会によって設置された防鹿柵の数は30にもなっています。
 また、東京大学および大阪府立大学による専門的な研究が行われ、日本鱗翅学会自然保護委員会によるシイタケ栽培地における保全の取り組みも進められています。
 そして、本種の保全のための環境省の保全連絡会議が年1回程度行われ、各関係者による連携した取り組みとなっています。

 
 

3.保全活動の状況

 

 生息域外保全は、前述のように、足立区生物園、長崎バイオパーク、箕面公園昆虫館の3館で行われており、年3回程度成虫を発生させ、チョウの温室で交配作業も行われています。また、交配終了後は、チョウの温室での一般公開もされています。

 

足立区生物園での生息域外保全の様子
 

 また、対馬の生息地では、生息適地にシカの侵入を防止するための柵を設け、そこに食草や吸蜜植物を植栽したり、播種したりすることで、環境の復元が進められています。そして、柵の中では、ツシマウラボシシジミの食草や吸蜜植物が繁茂し、良好な生息環境が少しずつ戻ってきています。

 
 
 
 
 
日本チョウ類保全協会が設置した防鹿柵。

 
 
日本チョウ類保全協会が設置した防鹿柵。
 

 
 
 
 
 
対馬市が設置した防鹿柵。柵の中(左)では、下草が繁茂しており、外側(右側)ではほとんど草が生えていません。柵の効果がよくわかります。

 

対馬市が設置した防鹿柵。柵の中(左)では、下草が繁茂しており、外側(右側)ではほとんど草が生えていません。柵の効果がよくわかります。

 
 
 
 
 
 防鹿柵内の環境をできるだけ早く回復させるため、対馬市によって、食草であるヌスビトハギ類が栽培されており、大きく育った苗が移殖されています。

 

 防鹿柵内の環境をできるだけ早く回復させるため、対馬市によって、食草であるヌスビトハギ類が栽培されており、大きく育った苗が移殖されています。

 
 
 
 
 
日本チョウ類保全協会が設置した防鹿柵の内部の様子。食草が繁茂し、良好な環境が創出されています。

 

日本チョウ類保全協会が設置した防鹿柵の内部の様子。食草が繁茂し、良好な環境が創出されています。
 

 
 そして、環境が整備されてきた場所では、飼育した個体が放され、野生でツシマウラボシシジミが復活するような取り組みが進められています。

 野生下への放チョウは、2013年より行われてきましたが、環境の復元に時間がかかり、なかなか野生下での定着が見られませんでした。しかし、2019年度以降、放した個体が野生下で世代を繰り返し、数が増える状況が見られるようになってきました。


 

 
 
 
 
2019年秋に野生下で多くの個体が見られるようになった保全エリア。約320個体もの越冬幼虫が確認されました。


2019年秋に野生下で多くの個体が見られるようになった保全エリア。約320個体もの越冬幼虫が確認されました。

 

 
 
 
 
 
 
羽化したばかりの成虫。


羽化したばかりの成虫。

 

 
 
 
 
 
 
 
食草の葉を綴って、その中で越冬する終齢幼虫。


食草の葉を綴って、その中で越冬する終齢幼虫。

 ツシマウラボシシジミでは、以上のように、野生下での復活に向けた取り組みが年々前進しています。まだ野生での定着が短期間確認されたばかりであり、今後も多くの取り組みが必要ですが、近い将来、ツシマウラボシシジミが対馬で安定してみられる状況を目指して、関係者が協働で取り組みが進められています。

 
 日本チョウ類保全協会では、絶滅危惧のチョウの保全に重点をおき、このような活動を全国的に進めています。多くのみなさまのご参加・ご協力・ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
 
 
 
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